印刷とDX

印刷会社におけるDXとは

近頃注目を浴びている、DX(Digital Transformation、デジタル変革)。本稿ではDXについての概要と印刷会社でのDXについて解説します。

DXとは

ウィキペディア日本語版※1から引用すると、「DXとは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。」とあります。なんとなくいい概念と思いますが、抽象的でありいまひとつ具体性に欠けています。
経済産業省が2018年12月に公開した「DX推進ガイドライン」※2、では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。 こちらは具体的ではあるものの、データとデジタル技術の活用はもう何年も前から叫ばれていたことでもあります。
ちなみに、Digital Transformationの略が”DT”ではなく、”DX”となっているのは、英語圏では”Trans”を”X”と略すことが多いため、”DX”と表記されています。

※1 ウィキペディア「デジタルトランスフォーメーション」(閲覧日:2019年7月2日)
※2 経済産業省HP「DX推進ガイドライン Ver. 1.0」(閲覧日:2019年7月2日)

なぜ今DXなのか?

では、2004年に提唱された概念が、なぜ今注目されているのでしょうか。これにはいくつかの要因があります。
1つ目の要因は政府によるデジタル化の推進です。
2016(平成28)年12月に官民データ活用推進基本法が成立して以降、世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の策定、2017年5月の「デジタル・ガバメント推進方針」として政府の取り組みの策定、そして2018年7月にデジタル・ガバメント実行計画が決定しました。
この計画は、わが国の行政を取り巻く環境や社会構造の変化、IT技術のめざましい進展により、国民一人一人に実質的なベネフィットを提供するための素地が整いつつあることを背景として、前述の推進基本計画に示された方向性を具体化し、実行することによって、安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会を実現するためのものとなっています。
そして、2018(平成30)年から2023年(令和5年)を対象期間としたことで、政府としてもこれまで以上に本腰を入れてデジタル化に取り組んでいくことが具体的に示されました。
当然、企業、個人もこの恩恵と影響を受けることになりますが、このままでは既存の産業、企業が淘汰(とうた)されてしまうという危機感もあります。
2つ目の要因は2025年の崖と言われているITシステムが抱えている危機によるものです。
2025年の崖とは、2018年9月に経済産業省が公表した、「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」※3によると、既存システムの問題であるブラックボックス状態を解消しつつデータを活用できない場合は、次の状態になるとしています。
(1)市場の変化に対応して、ビジネス・モデルを柔軟・迅速に変更することができずデジタル競争の敗者となる。
(2)システムの維持管理費用が高額化し、IT予算の9割以上となり技術的負債が発生する。
(3)保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティーや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失等のリよるリスクが高まる。
この3つの課題を指摘し、これを回避するには2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要があると提言しているものです。3つ目の要因はITの進化です。
テクノロジーの進化により、クラウドの利用はもはや当たり前のこととなり、AIの本格的な普及、外部との連携技術の進展に伴い、これまでデジタル化を阻む原因となっていたインフラ調達の時間とコスト、日々更新が必要なセキュリティー対策、常に最新であることが要求されるアプリケーション環境、接続する相手先ごとに準備しなければならなかったデータ連携が、より早く、より簡単に実現できるようになってきました。そのためよりデジタル化に取り組みやすくなっており、この動きは今後さらに加速すると考えられます


※3 経済産業省HP「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(閲覧日:2019年7月2日)

DXの実現シナリオ

こちらも経済産業省のDXレポートから引用しますと、DX実現シナリオとして、「2025年までの間に、複雑化・ブラックボックス化した 既存システムについて、廃棄や塩漬けにするもの等を仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、DXを実現することにより、2030 年実質GDP130兆円超の押上げを実現」とあります。対策として「新たなデジタル技術の活用による新たなビジネスモデルの創出」とり、できるものからDX実施。とあまりに簡単ではあるものの、少し具体的にユーザー側のシナリオ、ベンダー側のシナリオの2つが示されています。
そして、最後にDX推進に向けた対応策も示されていますが、これを読んだ企業が具体的な実行計画を立てられる内容になっているかというと、そうはなっていません。具体的に取り組むには各社とも現状の調査から始めることと、状況によってはベンダー企業の協力を得る必要もあります。

DXの脅威

経済産業省DXとは、これまでの文書や手続きの単なる電子化から脱却し、IT・デジタルの徹底活用で、手続きを圧倒的に簡単・便利にし国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上するものです。また、データを活用し、よりニーズに最適化した政策を実現します。仕事のやり方も、政策のあり方も、変革していきます。
個人の観点でいえば良いことのように見えますが、企業にとってみれば前述の対策が必要なだけでなく、デジタル化によりペーパーレスがさらに加速することになるため、紙を扱っている製紙会社、卸業、出版会社、印刷会社、ITベンダーなどにとっては大きな脅威となる可能性もあります。

印刷業界におけるDXへの取り組み

印刷業界においては、ここ数年の傾向でもありますが、受注あたりのロットの減少、多品種少量化、短納期化、品質の向上に伴い、デジタル印刷機の普及が進んでいます。また、印刷工程のデジタル化だけでなく、生産管理のシステム化、周辺業務の自動化も並行して取り組むことが重要となっており、各社で検討と対応が進んでいます。

最後に

2025年というとまだ先のように思われますが、システムの刷新を行うのであれば、調査、検討から始めてもあまり時間に余裕があるとはいえない状況です。
各企業が着実にDXに取り組み、一歩ずつでもDXを実現していくことにより、あらゆるユーザー企業がデジタル企業に変革し、競争上の優位性を確立すること、そのことが生き残るポイントとなります。

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