知っていると便利な知識~PDF規格編~

はじめに

PDFには用途に合わせて規格があることをご存じでしょうか。印刷会社ではPDFデータでの印刷を取り扱っている場合が多いですが、印刷の際、データに起因する不備が発生しないようにPDFデータのバージョンや規格を確認することがあります。 今回は印刷におけるPDFの規格について詳しく説明します。

PDFとは

PDF(Portable Document Format)とは、広く一般に普及しているフォーマットです。Windows、Mac、LinuxなどOSを問わずデータが開けるので印刷に限らず広く活用されています。

PDF規格とは

PDFにはデータをやり取りする用途に合わせて、国際標準化機構(ISO)にて定められた規格があります。


・PDF/E(Engineering)規格
技術文書のインタラクティブな交換に適しています。CADデータ(※1)などの複雑な3Dデータの組み込みに適しており、知的権利の安全な配布にも利用されます。
・PDF/A(Accessibility)規格
電子文書の長期的なアーカイブに適用されます。時間が経過しても文書の外観を保ち、電子文書の文脈と履歴をメタデータとして記録します。
・PDF/X(Exchange)規格
グラフィックコンテンツに適しています。印刷用途に最適化されており、印刷上問題となるカラー・フォント等の不確定要素をできるだけ排除しています。
・PDF/VT(Variable Transactional)規格
バリアブルデータおよびトランザクション印刷(※2)の国際標準として発行されました。
・PDF/UA(Universal Accessibility)規格
アクセシビリティを高度化することを目的としたPDFです。支援技術と互換性があり、障がいのある方、高齢者を含むすべてのユーザーがアクセスしやすくするための構造となっています。


※1 CADデータとは…CAD(Computer Aided Design)はコンピュータを用いて製図設計を行うための寸法定義ができる作図ソフトウェア全般で作成されたデータのことです。主に建築・建設や製造業における工学分野での設計に用いられます。
※2 トランザクション印刷とは…可変印刷であるバリアブル印刷の一種です。主に請求書、小切手、給料明細などで使用されます。銀行などの郵送物から発展したため「トランザクション(商取引)印刷」と呼ばれています。

PDF/X規格~印刷に特化したPDF~

各規格とその用途をご紹介しましたが、その中で印刷用途として定められているものがPDF/Xです。
PDF/Xにも3つの種類があります。下表をご覧ください。

・PDF/X‐1a
カラーはCMYK(※3)と特色(※5)に制限しており、フォントを組み込む必要があります。透明効果(※6)を使用している場合は、データを書き出す際に自動で分割・統合されます。
・PDF/X‐3
ベースはPDF/X‐1aと同じです。カラーはCMYKとプロセスカラーに加えてRGB(※4)カラーにも対応しています。
・PDF/X‐4
RGBカラーに対応しており、透明効果、レイヤーも許可されておりデータが保持されたまま書き出されます。

※3 CMYK…真っ白な素材に色を重ねて反射する光の波長を吸収(減法)させ、色を作っていく混色方法。印刷物はC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色を用いて全ての色を表現しています。
※4 RGB…真っ黒な画面に光を重ねて色を作る混色方法を加法混色と言います。R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の三原色を使い、モニターで色を表現する際に使われます。
※5 特色(とくしょく)…印刷においてプロセスカラー(CMYKの4色の組み合わせによって表現された色)では再現できない色を表現するために、あらかじめ調合された色・インキを指す。
※6 透明効果…オブジェクト(画像、テキスト、図形など)を部分的に透明にすることで、他のオブジェクトとの重なりや深度を調整する効果。オブジェクトは不透明度 100 %(完全な塗りつぶし)から不透明度 0%(完全に透明)まで変更することができ、不透明度を下げると、オブジェクト、線、塗りまたはテキストの表面から背面のアートワークが透けて見えます。

案件に合わせた規格の選択

PDF/Xの規格が3種類あるのは分かったけど、実際に印刷で使用するデータはどれが良いのか?とお思いになられた方もいるかもしれません。
基本はPDF/X‐4をまたはPDF/X‐1a推奨します。
PDF/X‐3を印刷で使用することは稀です。PDF/X‐3はカラーマネージメントを利用したワークフローに適した規格となっているため、雑誌広告データに用いられることがあります。
下表をご覧ください。実際に印刷で使用するデータはどれが良いのか、PDF規格の目安を表しました。
例えば・・・
①RGBカラーを含んでいる場合、PDF/X‐4を推奨します。(例:DM、チラシ、冊子等)
PDF/X‐4を推奨する理由は、PDF/X‐1aはCMYKと特色に対応していますが、RGBには対応していません。データからPDFに書き出す際、RGB部分はCMYKに自動的に色が変換されてしまいます。自動的に変換されることによって色味に差が出る可能性があります。
PDF/X‐4で書き出すことによって、RGBカラーデータを保持することができます。
仮にRGBカラーデータを使用しているがPDF/X‐1aで書き出したい場合は、書き出す前にRGBカラーデータをCMYKに変換することで色味に差が出ることを防ぐことができます

②透明効果を含んでいる場合、PDF/X‐4を推奨します。(例:DM、チラシ、図を含む紙面等)
PDF/X‐4を推奨する理由は、PDF/X‐1aは透明効果には対応していません。PDFに書き出す際、透明効果部分は自動的に統合・分割されてしまいます。
PDF/X‐4で書き出すことによって、透明効果を保持することができます。
仮に透明効果を使用しているがPDF/X‐1aで書き出したい場合は、書き出す前に透明効果のかかっている部分を統合・分割化する等の方法で意図しないデータの作成を防ぐことができます。

③RGBカラーを含んでおらず、透明効果も含んでいない場合、PDF/X‐1a、またはPDF/X‐4を推奨します。(例:請求書、支払い振込表等)
PDF/X‐1a、PDF/X‐4どちらの規格でも大丈夫ですが、印刷する機械(デジタル印刷、オフセット印刷)や製造する部数等複数の要因によってPDF/X‐4よりもPDF/X‐1aを推奨する場合があります。

PDF/Xの書き出し方

PDFデータをPDF/X規格で書き出すには、Adobe社のアプリケーションを使用します。Adobe社のアプリケーションでは、あらかじめ用途に応じたPDFが書き出せるようにプリセットが用意されています。PDFプリセットとは、カラーやフォント、画像の解像度など、PDF作成処理に影響を与える設定をまとめたものです。
Illustratorを例にして説明します。上の図をご覧ください。
1.印刷データを作成します。
2.ファイル内の「別名で保存」をクリック。保存先を選択後、ファイルの種類から「Adobe PDF」を選択し、保存します。
3.PDFプリセットから、規格を選択することができます。PDF/Xを選択後に保存をクリックします。
以上でPDF/X規格を書き出すことができます。
また、Adobe Acrobatというアプリでは、PDFデータがPDF/X‐1a、PDF/X‐4に準拠しているか、印刷用途に適したPDFデータか、プリフライトという機能で確認することが可能です。Adobe社のIllustratorを所持していない場合、PDFが規格に準拠しているかお客様先で分からない場合、プリフライトの機能によってPDFデータを確認することができます。

最後に

いかがでしたでしょうか。PDF規格に関してご紹介いたしました。「他の印刷事例を知りたい」、「準備したPDFデータで印刷ができるか不安だ」等、お悩みやご要望がございましたら、まずはお気軽にお問合せフォームからお問合せください。

参考リンク

(Web)PDF/X、PDF/A、PDF/E 準拠ファイル | Adobe Inc. (閲覧日:2024年2月20日現在)
(Web)PDF書き出しプリセットの使い方 | Adobe Inc. (閲覧日:2024年2月20日現在)
(Web)透明部分の分割・統合 | Adobe Inc. (閲覧日:2024年2月20日現在)
(Web)PDFにおける透明効果、20年の歩み | Adobe Inc. (閲覧日:2024年2月20日現在)

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